MarkeZineDay 2016 A.I. に参加して

2016年4月に,翔泳社 MarkeZine編集部が「MarkeZineDay 2016 A.I. 機械学習/A.I.で進化するデジタルマーケティング(http://event.shoeisha.jp/mzday/20160426)」なるシンポジウムを開催しました.このような無料のシンポジウムは,多くが登壇者の企業が自社のサービスを紹介するようなものとなっています.時間を割いてこのようなところで話すのですから,当然と言えばとうぜんですが.それでも役に立つような話もあります.

<この記事は「デジマのあれこれ」にて2017年1月頃公開された記事を一部改良して移植したものです>

 

はじめに

「MarkeZineDay 2016 A.I. 機械学習/A.I.で進化するデジタルマーケティング」ではパネルディスカッションも含めて6つの講演があったのですが,講演のメモと簡単な感想を下記に紹介します.

なお,「機械学習」とはいわゆる今日において人工知能と呼ばれているひとまとまりにされている手法の一つ(その中にはさらにアルゴリズムで分類されたりします)で,マーケティングでも「人工知能」と騒がれてる前から使われている技術です.

 

AI、機械学習の登場で変わるマーケターの役割

石山洸(株式会社リクルートホールディングス Recruit Institute of Technology 推進室 室長)

<メモおよび感想>

リクルートは機械学習(研究分野)と事業立ち上げ等(ビジネス)の両方の視点とスキルを持っている人材を世界規模で集め,人工知能研究所を立ち上げた.自分たちが求める人材は,どれぐらいレベルが高くないかといけないかの話があり,それだけ本気で人工知能に取り組んでいるということが中心でした.

発表の資料配付もなかったのですが,ググると

リクルート、人工知能研究を本格化 【前編】人工知能の浸透で必要になるマーケターのスキルとは?

http://markezine.jp/article/detail/23793

【vol.2】「目指すのは人とAIの共進化」リクルートAI研究所所長が人工知能領域への取り組みを明かす

http://www.recruit.jp/meet_recruit/2016/01/it02-2.html

などが見つかり,講演で話した内容ほぼそのまま(レーズンパン型人材など)です.

また,百人百色の人工知能を提供していきたいと考えて研究を進めているようです.理由は,機械学習を(研究者レベルで)扱える人だけで問題を定式化するときっと偏ったアイデアになる.したがって,機械学習が扱えない人による問題の定式化によって出る多様なアイデアが大切と考える(機械学習自体は,専門家でなく一般の人が普通に利用するレベルに必ず近い将来になる,PCが普及したように).リクルートグループ内で汎用型のツール(何百ものモデルから自動的に最適と思えるものを選び提案する)を使える環境にして,すでにいろいろと実行中とのこと.このようにすることで,機械学習を(研究者レベルで)扱える人には,クリエイティブな事柄に時間をより多く振り分けられるメリットが生まれたからだそうです.

まとめとして,採用ではレーズンパン型人材(科学と経済の両方の視点とスキルを備えた人材)の獲得が大切であり,汎用インフラ開発ではマルチラリティによる競争戦略をとのことでした.

登壇者の立場が簡単に言えば自分たちが新たな社会の仕組みを作り出したい.そしてそれを利用してくださいという感じでした.したがって,このシンポジウムで集まった多くの聴講者が期待したものとのギャップが大きかったと思います.登壇者はとにかく人工知能の未来像を語りたい,そして自分たちのすごさを語りたいというような感じでした.そこにマーケティング関連の話はとってつけたような構成だった思いました.

この講演は,講演資料の配付がありませんでしたが,上記で紹介したリンクの他にたぶん

リクルート、人工知能研究を本格化 【後編】リクルートのビジネスのみならず社会に貢献する研究とは

http://markezine.jp/article/detail/23827

【vol.1】テクノロジーは人を幸せにするのかーAIの世界的権威アーロン・ハーベイが描くビジョンとは

http://www.recruit.jp/meet_recruit/2016/01/it02-1.html

【vol.3】なぜ今AIなのか 人工知能のおさらいと注目される理由

http://www.recruit.jp/meet_recruit/2016/02/it02-3.html

【vol.4】人工知能が各業界にもたらす影響と、増加するAIスタートアップへの投資

http://www.recruit.jp/meet_recruit/2016/03/it02-4.html

などが,講演内容の元ネタだと思います.これらを読めば聞く必要もメモもとる必要がないものでした.人工知能関係の講演用に元かある資料にちょっとマーケティングの話を追加したのがこの講演だったと思います.

 

AI × デジタル マーケティングによるカスタマーエクスペリエンスのイノベーション

上原正太郎(アドビ システムズ 株式会社 デジタルマーケティング 製品統括責任者)

<メモおよび感想>

現在は,過去にないほど顧客体験が重要になった.エクスペリアエンス(体験)がブランディングになったと言える.それに対して,アドビは8つのソルーション(Adobeアナリティクスなど)をAdobe Marketing Cloudとして提供し,マイクロソフト(Azure)との協力を推進している.

マーケティングオートメーションによってカスタマジャーニーの自動生成も可能,予算配分のレコメンデーションなどなどがアドビならAdobeアナリティクスで計測したデータを利用して比較的簡単にできます(というアピール).

アドビは人工知能に関して,「①人工知能は補完的な役割,②機械学習による生徒(結果)の出来具合は教師データ次第,③人,物,金の自動化&効率化/最適化」というスタンスでと現状取り組んでいる.

つまり,アドビのツールでも最適化などはできるがアドビ自体が人工知能の開発を推進していることはなく,それはマイクロソフトのAzure Machine Learningとの連携が可能ということで解決する(提供する)ことだと思います.

 

レコメンデーション、会員分析だけじゃない。サイトの価値を上げる機械学習活用術

小泉 裕二(株式会社ナレッジコミュニケーション 取締役副社長 COO)

<メモおよび感想>

機械学習で代表的な物を5つほど紹介し,マーケティングでの機械学習の活用例のこれまでのものと今後伸びそうなものを紹介.

事例として,自社の口コミサイトの掲示板の書き込みからふさわしくない物を探し出して自動で削除するツール(不正投稿スレツール)を紹介.テキストマイニングと機械学習の組み合わせ(教師あり分類)によって判断する(以前は,人でやっていたが現在は完全にツールで自動化).成果を上げているとのこと.

AzureやAWSの導入を請け負うこともやっていて,豊富な導入経験がある(サポート企業である).Azure Machine Learningに豊富な分析手法があることの紹介.

これまでの導入や自社での活用で感じた機械学習の課題は,

  • メインの知識が必要,
  • 機械学習に関するちゃんとした知識(最適なモデルの選択など),
  • ビジネス効果に影響がでる

を上げる.

①と②に関して職人技的なものが(まだ現段階では)必要.何度もトライ&エラーが必要.③はモデル作成には通常何週間や何ヶ月など時間がかかるため,速くPDCAを回すものには向いていない.

AzureやAWSの導入を請け負っていることもあって,Azure Machine Learningの使用経験も豊富のようです.Azure Machine Learningを使ってみる場合は,この会社のアーカイブ

http://azure-recipe.kc-cloud.jp/category/azure-machine-learning/

が参考になりそうです.

 

プライベートDMPからのマーケティング・アクションの現在 ~データ分析会社の視点から~

安田 誠(株式会社ブレインパッド 取締役)

<メモおよび感想>

ブレインパッドはDMP(データマネージメントプラットフォーム)の国内市場で規模がNo.1(弾三者期間調べ).ブレインパッドはDMPには標準でレコメンデーションの機能が付いている.

データ・ドリブン・マーケティングにおいて,DMPが基幹となる.DMPはプライベートDMP(自社データを利用する)とパブリックDMP(国内有名なものはYahoo!DMP)がある.プライベートDMPのデータとパブリックDMPのデータを掛け合わせて(機械学習など)で利用することが広まっている(プライベートDMPのデータを基準にパブリックDMPのデータから見込み客になりそうなセグメントを見つけ出して利用).

登壇者の個人的感想では,データからのアクションと分析環境は分かれるのが現状は理想.なぜなら,データからのアクションはリアルタイムを要求されることが多いが,分析は時間がかかる(特に最新の分析方法などを試すなどすると).

DMPは,導入やデータ収集が目的ではなく,アクションして成果を上げることが本来の目的であることを忘れてはいけない.

事例として,ピーチ・ジョンのDMPで自社の機械学習によって類似ユーザーのセグメントを自動生成.そのセグメントを利用した施策でCVRが3.8倍になった.

データ蓄積が次のアクションをする上で重要になるので,データの蓄積は本当に重要(アルゴリズムはいろいろ試せるけど,データ蓄積は遡れない).

デジタルマーケティング領域における機械学習の留意点:

  • 率化のみでビジネスをシュリンクさせないこと(広告配信ボリュームの縮小・・・母数がひろがらない.人気商品に偏ったレコメンド・・・商品露出が限定される.過度に機械に学習させてあげる機械を与えること・・・一定のチャレンジ.
  • コールドスタート問題を考慮すること(データが蓄積されないユーザーにどうアプローチするか?過去データのない新規商品,新キャンペーンなどへの対応.
  • 全体の最適化/ゴールを忘れないこと(機械は必ずしもビジネス全体を最適化しているわけではないこと.機械学習だけでなく最適化エンジンの導入も考慮すること).

まとめ:

  • 械学習によるマーケティングは益々活性化していく・・・マーケティングにおける機械学習の領域は拡大していく.深層学習などこれから機械学習/人工知能の技術進歩は注目すべき.
  • 理論だけでなくビジネスゴールを常に考える・・・機械は必ずしもビジネス全体を最適化しているわけでない.ビジネスゴールに則したアクションとなっているか,常に意識しておきたい.
  • データがアクションをする上でのポイントである・・・自社データだけでなく外部データなども積極的に活用することで,より自社データを拡張していきたい,機械学習アルゴリズムにより少ないデータ,より効率的なデータで学習させるには.

 

事例で読み解く!機械学習のデジタルマーケティング活用、成功の鍵

田中 健太郎(日本マイクロソフト株式会社 パートナービジネス推進統括本部 シニアマーケティングマネージャー)

<メモおよび感想>

朝日カルチャーセンターで機械学習(Azure Machine Learning)をつかったレコメンドでの成功事例の話がとして紹介される.また,北欧と英国でのマクドナルドの事例が紹介される.

機械学習のメカニズムは

 

手法

できること

活用例

回帰分析過去の実績から将来の数値を予測売上予測
クラスタリング所与のデータを値の類似性を元にグループ化顧客セグメント化
クラス分類所与のデータに対し「クラス」を割り当てる顧客の声分類
レコメンデーション閲覧・購入履歴から推奨商品を提示商品おすすめ
認知画像・動画・言語などを認知・分析できるエンゲージ用AI
その他ゲーム・対話等

 

というものの集まり.

マーケッター視点での成功の鍵とは,先行者優位に繋がるナレッジとモデル獲得のため,機械学習のモデルを知り,協力者を得ること.機械学習の手法を知り,まずはトライし,協力者を得る.

その環境としてAzure Machine Learningが適している.ぜひ使ってみてください(そして困ったときは声をかけてください)ということでまとめ.

 

パネルディスカッション:レコメンド、需要予測、顧客分析……機械学習で進化するマーケティング

山崎 茂樹(株式会社電通 デジタルマーケティングセンター テクニカル・ディレクター),濱野 斗百礼(楽天株式会社 執行役員 アドソリューションズ事業長/リンクシェア・ジャパン株式会社 代表取締役社長),山本 薫(アサヒビール株式会社 経営企画本部 デジタル戦略部 担当副部長),安成 蓉子(株式会社翔泳社 MarkeZine編集部 副編集長)

<メモおよび感想>

導入ハードルの低下によって機械学習に触れやすくなった.

機械学習の一番の効果は,コスト削減だと思う.

楽天の濱野氏,「Googleに勝ちたい」と何度も言う.Infoseekに関わっていた関係から,やはりサーチは購買に直結していると感じる,楽天に集まる個人の情報を結合させて(購買データだけでなくバイタルデータなども含めありとあらゆる各個人のデータを名前寄せして)利用したい.最強のレコメンドやサジェストを構築してみたい.データをいかにとつか,集めるかに興味がある.

なお楽天では集まる購入データから,景気動向指数をかなり正確に予想出来るようになった.

機械学習は手段であって目的ではないことを忘れてはいけない.

楽天の濱野氏がやりたがっていることやその発言を聞くと,顧客側からしたら楽天にはできるだけ関わりたくない(楽天に個人情報を渡すのは嫌だ)と強く思いました.

 

おわりに

以上でメモおよび感想は終わりです.参加してよかったとおもえるような収穫はあまりなかったシンポジウムでしたが,楽天はやはり使いたくないということは再確認できてよかったです(笑).

なお,MakeZinのサイトでこのシンポジウムのまとめレポートサイトがあります.

MarkeZine Day 2016 A.I. レポート一覧

http://markezine.jp/article/corner/601