デジタルマーケティング界隈において2016年の流行語は「人工知能」だと思います(これはバズワードでもあるのですが)が,数年前は「アトリビューション」がいわゆる流行語としてもてはやされたの時期があったのだろうと思います(そのときは,私はまだこの業界に関わっていないのでわかりませんが).今やフォーラムやシンポジウムにおいても,「アトリビューション」はほとんど話題として取りあげられません.ですが,アトリビューションという考えが日本で常識になったのかは怪しいです[1].
そこで,「アトリビューション」について考えてみたいと思います.
目次
1.そもそもアトリビューションとは?
Webサイトの目的はいろいろありますが,ECサイトならば商品を買ってもらうこと,サービスの申し込みサイトなら申し込む完了がそのサイトの大きな目標になります.このような目標達成を「コンバージョン(“CV”と略して書くこともあります)」とインターネット広告やWeb業界では呼ぶそうです.
Webサイトのアクセス解析は,このようなコンバージョンに至ったユーザーがどのような経路で(どのような媒体を使って)サイトに訪れたかを知ることが目的の一つです.しかし,ある商品をネット通販で購入する場合を考えてみてください.ネットでその商品に関する情報を収集したりしませんか?そのような場合,あるサイトでコンバージョンに至っても,検討のためそのサイトを実は何度もいろいろな経路で(例えば,検索の結果やあるサイトのリンクを使ったりなど)訪れたりします.そうなると,コンバージョンに至ったときの流入経路だけが重要(コンバージョンに至った貢献度が高い)と評価するのは,とても不自然です.
アクセス解析では一昔前までは技術的問題もあり,ユーザーがコンバージョンに至った貢献度をコンバージョンに至ったときの流入経路の媒体(「有料検索」や「ディスプレイ広告」や「アフィリアエイト」など)に与えて評価してきました.しかし,上述したようにそれ以前の流入もあるのならそちらもコンバージョンに至るための貢献をしていると考えるの自然です.コンバージョンする前の検討段階のときの方がサイトの情報をしっかり読んでいて,それがそのサイトでの購入等をするという判断の決定打になったりします.そこで,そのようなコンバージョンに至ったような直接の流入以外にも貢献度を与えて評価しようというのが,アトリビューションという考えです.
なお,アトリビューションの書籍[2]には,
広告・マーケティング業界におけるアトリビューションとは「コンバージョンに至るまでの流入元の履歴データを使い,コンバージョンへの貢献度を各流入元に配分すること」
であり,さらに目的によって分析・モデリング・マネジメントの以下のような3つの分類を示しています.
アトリビューション分析:コンバージョンに至るまでの流入元の履歴のデータを使い,コンバージョンへの貢献度を「分析する」こと.
アトリビューション・モデリング:的確に貢献度を導き出すために,ビジネスモデル,業種,キャンペーン内容を考慮して「重み付けの分析モデルを設計する」こと.
アトリビューション・マネジメント:貢献度に応じて予算配分の変更やポートフォリオの「組み替えを行う」こと.
2.無料で使えるGoogle Analyticsのアトリビューション機能
以下では,コンバージョンに至った直前のクリック(これを「ラストクリック」と呼びます)に該当するもの以外の貢献度を考えて評価する試みをアトリビューション分析として,アトリビューション分析というものを考えていきたいと思います.
よりよいアトリビューション分析には,第三者配信といわれる(有料)技術を使ってデータを取得する環境が望まれると言われていますが,本当にそこまでお金をかける価値があるのかは正直わかりません.第三者配信はユーザーが広告を目にした(正確にはブラウザー上で広告が表示された)ときの情報も含めてユーザーの行動の情報が取得できるので,広告の貢献度が正確に評価できると言われています.第三者配信を使うには,そのサービスを提供している会社と契約する必要があり,そのコストは安いものではありません.さらに計測をするために広告配信の設定も一部変更が必要になったりします.ですから,第三者配信を使ってまでアトリビューション分析をする場合は,Webサイトの運用環境が整っている(PDCAをしっかり回せる)ような組織でないと,ただデータがとれただけでなにも活用できないだけで費用対効果に見合わないと思います.また,例え組織がしっかりしていてもアトリビューション分析をしてもそれが第三者配信を使ったコストに見合ったものかは一種の賭けのような気がします.
そこで注目されるのがGoogle Analyticsです.Google Analyticsを導入し目標(コンバージョンになるもの)を設定してさえすれば,アトリビューション分析が無料で出来るのです.図1に示したGoogle Analyticsの[コンバージョン > マルチチャネル]や[コンバージョン > アトリビューション]の機能がそれに該当します.ただし,Google Analyticsはクリックベースの計測であるので,広告や自然検索の結果などをクリックして流入してきたユーザーの情報しか収集されません(第三者配信のようにブラウザー上で広告が表示されただけのような情報が収集されません).また無料がある故に,自分でいろいろとカスタマイズしないと実際は使いにくいデータだったりもします.ですが,無料で使えるというのは大きいアドバンテージです.
よほどのことが無い限りアトリビューション分析は,クリックベースのデータで十分だと私は思っています.ディスプレイ広告が画面に表示されることでユーザーへの潜在意識に影響を与える効果があるとは思いますが,それもあくまでも仮説でしかありません.このよな表示による効果を気にするのは,Webサイト運用の最適化がかなり進んでからで遅くないと思います.
3.コンバージョン経路と代表的な貢献度配分のモデル
図2のようなあるユーザーがコンバージョンに至った流入元(「自然検索」や「アフィリエイト」など媒体情報のこと)の履歴を,「コンバージョン経路」と呼びます(第三者配信を使った場合,表示された場合も流入元と同様に履歴に含まれます).
コンバージョンに関する媒体への評価は,ほとんど場合コンバージョン経路の最後の媒体に全ての貢献度を与える「終点モデル(ラストクリック)」というものでした.上述したようにこれ以外の方法で,貢献度を分配しよういうのがアトリビューションの発想でした.例えば,とにかく知ってもらうためことを目的とするならば一番最初の流入経路が大切です.このような場合,コンバージョン経路上の最初の媒体に全ての貢献度を与えるような「始点モデル(ファーストクリックモデル)」と呼ばれるものが,評価に適していると言われています.一方で,コンバージョン経路上の全ての媒体に均等に貢献度を配分するほうがわかりやすいかもしれません.このようなものは,「線形モデル(均等配分モデル)」と呼ばれます.
通常は「終点モデル」で媒体の評価をしていると思います.したがって,「終点モデル」を基準として他のモデルの各媒体の貢献度を比較することで,媒体の評価を見直すためのヒントがえられるかもしれません.
4.分析結果は改善のためのヒントでしかない
あるサイトでアトリビューション分析をした結果,終点モデルの「ディスプレイ広告」の貢献度に対して線形モデルでの「ディスプレイ広告」の貢献度が300%アップした場合があったとします.この結果を受けて,そのディスプレイ広告の配信を見直す(配信を強化する)という判断は間違っていないと思いますが,ディスプレイ広告を効率よく配信できる限界と貢献度が最大になる場合は異なっている場合が大半のだと思います.コスト単純に増やして配信しても,クリック数やコンバージョン数が比例して伸びるとは限らないのです.常にバランスを考えることが重要だと思います.
アトリビューション分析をして得られた結果は,あくまでも運用や改善するためのヒントにすべきだと思います.アトリビューション分析の結果は,仮説に仮説を重ねている下で得られたものです.数学の問題の正解とは違うのだということを忘れてはいけません.
続きの記事:「アトリビューション」について考えてみる・その2
参考文献
[1] “なぜ浸透しない?日本企業が抱えるアトリビューション分析の課題とは”http://markezine.jp/article/detail/25443
[2] 田中弦,佐藤康夫,杉本剛,有園雄一.(2012) “アトリビューション 広告効果の考え方を根底から覆す新手法”,インプレスジャパン.
<この記事は「デジマのあれこれ」にて2016年12月頃公開された記事を移植したものです>